木の温もりを感じる居酒屋の一角。
陽翔と透真は大学のテストが終わったご褒美として、少し贅沢な海鮮居酒屋にやってきた。
二人はテーブルに並ぶメニューを眺めながら、どれを頼むか悩んでいる。
陽翔、これ見てよ。
ウニの盛り合わせだって!
おお、すごいな。
さすがに高級感あるな。
うん、贅沢だね。
でも、たまにはこういうのもいいよね。
目を輝かせた透真が、ふたたび手元のメニューに視線を落とす。
少し照明が落とされた店内の雰囲気が、二人の会話をさらに和やかにしてくれる。
でもさ、ウニってどこの部分を食べてるんだろう?
黄色くてキレイだけど、なんか全体がウニってわけじゃないよね?
ウニは高級食材として知られていますが、実際に私たちが食べている部分がどこか知っていますか?
また、ウニの中にある黒い部分の正体や、オスとメスで味に違いがあるのか気になりませんか?
そっか、透真はウニのどの部分を食べるのか知らないんだね。
首をかしげながら視線を向ける透真は、この上なくかわいくて、そして美しい。
この記事では、ウニの秘密を詳しく解説し、美味しいウニの見極め方までご紹介します。
ウニ好きなら知っておきたい情報が満載です。
目 次
ウニの食べている部分は生殖巣!
ウニの黄色い部分はね、じつは生殖巣なんだよ。
えっ、生殖巣!?・・・そ、そんなの食べてたの?
透真は顔を真っ赤にして陽翔から目を逸らした。
ウニは外側が硬い殻で覆われ、その中にある黄色やオレンジ色の部分が食用とされています。
私たちが食べているその黄色やオレンジ色の部分の正体は、じつはウニの生殖巣、卵巣・精巣です。
生殖巣は、ウニが繁殖するために蓄えた栄養分が詰まっているため栄養価が非常に高いとされています。
ウニの産卵期が近づくことで生殖巣が肥大し、濃厚な味わいとクリーミーな食感を楽しむことができます。
ただし、産卵期をすぎると味が落ちるため、旬の時期を見極めることが重要となります。
日本での旬は一般的に夏とされていますが、地域や種類によって異なるため、地元の情報を参考にするのがベストです。
なんでそんなに恥ずかしがるんだよ。
食材としては普通だぞ?
だ、だって、生殖巣って・・・なんか直接的すぎて・・・。
透真の声がだんだん小さくなって、目も泳いで、顔を覗き込む陽翔と目線を合わせようとしない。
お前、かわいいな。
そんなこと気にするやつ初めてみた。
ウニの構造
まったく目線を合わせてくれない透真に、陽翔は次なるウニの秘密を口にした。
透真、ウニってさ、殻の中身ってほとんど内臓なんだよ。
え?ほとんど内臓?
ウニは、外側が硬い殻で覆われた海の生き物です。
殻を割った瞬間にまず目に飛び込んでくるのは、鮮やかな黄色やオレンジ色に輝く部分、生殖巣。
その美しい色合いから、「これがウニの全てなの?」と驚く方も多いかも知れません。
さらに割った殻の中身をよく見ると、黄色い部分の周囲には黒っぽい部分や液体を見ることがあります。
この見た目からは、ウニの体がどうなっているのかがわかりにくいんですよね。
ウニの中身は人間で言うところの、内臓に相当する部分でほとんどを占めています。
構造は意外とシンプルで中央にある消化管が輪のように配置され、その周りに生殖巣が5つの部位に分かれて配置されているのです。
あと、トゲも体の一部でさ、ちゃんと役割があるんだ。
トゲに役割?
防御だけじゃないの?
ウニの構造としては、手足についても気になるところですよね。
硬い殻からはトゲトゲしている長いトゲと、先端が丸くなっている管足と呼ばれる小さな吸盤状のものが生えています。
トゲは外敵から身を守るためのものであり、管足は移動やエサをつかむために使われます。
これらは食用部分ではなく、私たちが食べるのは主に黄色やオレンジ色の生殖巣です。
生殖巣以外の食べられる部分
じつはさ、生殖巣以外にもウニで食べられている部分があるって知ってる?
えっ、生殖巣だけじゃないの?
まあ、ほとんどは生殖巣だけど、わずかに食べられてる部分があるんだってさ。
ウニの殻の中の液体(ウニ汁)
殻を割ったときに出てくる体液は、海水やウニが体内に保持している水分です。
これをスープや出汁に利用することがあります。
特に新鮮なウニでは、この液体にもウニ特有の風味が感じられることがあります。
ウニの消化管
通常は取り除かれる黒っぽい部分ですが、まれに地元の料理ではそのまま食べることがあります。
ただし、消化管にはウニが食べた海藻の残りが含まれるため、味わいは独特で、好みが分かれる部分です。
ウニの殻を使った料理
食べるわけではありませんがウニの殻を器として使い、焼きウニや蒸しウニなどの料理に利用することがあります。
殻を使うことで、ウニの香りが料理全体に広がります。
黒い部分の正体はウニが食べた海藻類
じゃあ透真、ウニを割ったときに出てくる黒い部分ってなにか知ってる?
あれは・・・消化管だから・・・?
惜しい。
あれはね、ウニが食べた海藻の消化途中のものなんだよ。
前章でもチラッと登場しましたが、殻を割ったときに見える黒い部分正体は、ウニが食べた海藻の残骸です。
ウニは主に海藻を食べて成長するため、黒い部分は消化途中のものや未消化物が詰まった腸の一部となります。
この黒い部分は食べられないわけではありませんが、風味を損なうことがあるため、取り除くのが一般的です。
新鮮なウニほど黒い部分が少なく、身がしっかりとしているので、美味しさの目安にもなります。
食べられないわけじゃないんだけど、俺的にはオススメはしないかな。
なんで?舌触りが悪いとか?
じつはウニは海藻だけではなく、デトリタスというものも主食として生きています。
デトリタスとは、次のように紹介されていました。
デトリタスとは、生物遺体や生物由来の物質の破片や微生物の死骸、あるいはそれらの排泄物を起源とする微細な有機物粒子のこと。
風味も損ねて、そのうえ死骸や排泄物って知っちゃうと・・・な。
ウニの中身の割合
ウニって不思議な生き物だよね。
中身の割合って・・・こんな感じになるのかな?
食用部分 | 30~50% | 生殖巣。 黄色やオレンジ色をした部分で、これがウニの美味しさを決定づける生殖巣です。 オスとメスで微妙に風味が異なるのも特徴です。 |
黒い部分 | 20~30% | ウニが日々食べている海藻の未消化物が詰まっています。 この部分が黒っぽく見えるのは、海藻の色素やウニが食べたものが混ざり合っているためです。 |
その他 | 20~30% | その他の内蔵や消化器官・骨格部分になります。 ウニの口から肛門までの消化器官や五角形に配置された骨格などがここに含まれます。 |
オスとメスで味が違う?
で、味なんだけど。
オスとメスでは味わいが違うんだよ。
へぇ~、どっちが美味しいの?
ウニにはオスとメスがあり、それぞれに特徴的な味わいがあります。
- メスのウニ・・・クリーミーで濃厚な味が特徴
- オスのウニ・・・さっぱりとした風味を楽しむ
ただし、オスとメスの味の違いは微妙で、品種や育った環境による影響も大きいです。
たとえば、エゾバフンウニやムラサキウニといった種類ごとに風味や食感が異なります。
旬のウニを選ぶ際は、オスとメスにこだわりすぎず、産地や鮮度を重視するのがオススメです。
ウニはオス・メス区別ができる?
ねぇねぇ、オスとメスって区別できるの?
一見すると同じに見えるウニですが、実は並べてジックリ観察するとオスとメスに違いがあるのがわかります。
- オス/精巣/黃褐色(白みがかった黄色)/粒がはっきりしている
- メス/卵巣/赤褐色(濃い黄色)/粒がドロっとしている
※上記は完熟期の状態で、完熟前ではオス・メス共に橙色をしており判別しにくい
色や粒の形状が違うということは、もちろん味も違ってきます。
どちらの味が美味しいかという論議をすると、『風味』を重視するか『コク』を重視するかで変わってきます。
ウニの品質は環境に左右される
風味か、コクか。
食べ比べてみなきゃだね。
なんでもそうなんだけど、育つ環境が品質を左右するだ。
ウニだって同じ。
オスもメスも殻の底面の中央にある口で、海底の岩に付着している小さな海藻を削ぎ取って食事をしています。
食べたものは人間と同じように食道を通って胃に運ばれ、その後消化された養分は腸で吸収され、排泄物は肛門(殻の頂点付近)から外へと排出されます。
腸に詰まった黒い部分の内容物は、ウニの味や風味に影響を与える重要な要素なのです。
特にウニが高品質な海藻を食べている場合、生殖巣の味が濃厚で甘くなると言われています。
一方、劣悪な環境で育ったウニは、消化管の内容物が多く、生殖巣も小さくなりがちです。
鶏だっていい餌を食べないと、いい卵が産めないもんね。
美味しいウニの見極め方とは
ウニはタンパク質・脂肪・グリコーゲン・ビタミン類が豊富に優れた食品で、生殖巣がもっとも発達する6~8月が一番美味しい時期とされています。
ウニは鮮度がいのち
ウニは非常に足が早い食材です。
鮮度がよく美味しいウニは、姿がしっかりして盛り上がる感じでメリハリがあります。
輪郭がしっかりしているので、フォルムが非常に美しいです。
ウニ独特の香りがあり、口に入れるとウニの食感と味がフワッと口に広がります。
しかし採れたての黄金色に輝くウニは、海の近くに住んでいる限られた人しか食べることができないでしょう。
ウニが苦い理由
一方、私たちがよく見かける板に敷き詰められたウニを『板ウニ』といいます。
保存するためウニの表面を、焼きミョウバンで洗って締めたものになります。
ミョウバンを使用することで防腐剤の役割を担い、ウニの形状を保つので見栄えはよくなります。
しかし表面がカサカサして、苦味やくさみが出てしまいます。
スーパーに陳列されているものや回転寿司のウニは、この板ウニが使われています。
美味しいウニを食べたいなら、トロ~としていて、ミョウバンで洗っていないものを選ぶことが肝心なのですが、腐敗には気をつけなければなりません。
美味しいウニを食べるなら高級寿司店へ
そっか。
ウニって奥が深いね。
じゃあこの、ウニの盛り合わせはやめとく?
いや、ここのは美味しいと思うよ。
こういうお店は食材にこだわってるからね。
ウニにはオスとメスがあります。
一般的に、味がよく高値で取引されているのはオスの精巣の方で、高級寿司店へ卸されています。
価格は高く、専門店で食べるウニは新鮮で、濃厚な旨味があり満足感も格別です。
一方、回転寿司で提供されているウニの多くはメスで、ミョウバン(保存料)を使っているため特有の臭みがあります。
特に溶けたような柔らかいウニは鮮度が落ちている可能性が高く、風味も劣ります。
また、一部の回転寿司では、しっかりした身の下に溶けかけたウニを隠して盛り付けています。
見た目がよくても、口に入れると臭みが広がるのはこのためです。
おいしいウニを選ぶポイントは「鮮やかな黄金色で、輪郭がしっかりしたもの」です。
新鮮なウニを見極め、よりおいしい一皿を楽しみましょう。
うにはどこの部位を食べてる?黒い部分は何?美味しいウニの見極め方、のまとめ
ウニはその独特な味わいから高級食材として愛されていますが、実際に食べているのはウニの生殖巣です。
割った時に見える黒い部分は消化管の内容物で、ウニが食べた海藻類の残り物や未消化物です。
新鮮なウニほど少ないことを覚えておきましょう。
オスとメスの生殖巣には微妙な味の違いがあり、それぞれの個性を楽しむことができます。
ウニの美味しさの秘密は、生殖巣に詰まった栄養分と旬の鮮度にあります。
さらにおいしいウニを見極めるには、色や香り、触感に注目することがポイント。
鮮やかな黄色やオレンジ色で、臭みがなく甘い香りがするもの、そして粒がしっかりしているものが良質なウニの証拠です。
この記事を参考に、次回ウニを食べる際にはその奥深い世界をもっと堪能してみてください。
★おまけ★
店を出ると、夜風が心地よく頬を撫でた。
透真はほろ酔いの顔を上気させながら、陽翔の腕にしっかり掴まっている。
少しふらつく足取りが、酒の回り具合いを物語っていた。
ウニ・・・すっごくおいしかったな・・・。
だろ?お前が、あんな幸せそうな顔して食べてたの初めてみた。
だって、本当にトロトロで・・・もう一皿頼めば良かったかも・・・。
次は俺がもっといい店連れてってやるよ。
その代わり、今日の酔い覚ましは俺に任せろ。
透真は陽翔の言葉に小さく笑いながら、ふらつき気味の足を無理に動かそうとするが、バランスを崩しそうになった。
ほら、無理すんなって。
俺が支えてやるから。
陽翔は自然に透真の腰にうでを回し、しっかりと引き寄せた。
その瞬間、透真の顔が赤く染まる。
酔いのせいなのか、それとも別の理由なのか、自分でもわからない。
・・・ありがと。
でも、なんか恥ずかしい。
何が恥ずかしいんだよ。
酔っ払ってるお前、マジで可愛すぎなんだって。
か、かわいいって・・・!
陽翔は透真の耳元に顔を近づけ、低く囁いた。
ウニも良かったけど・・・家に帰ったら、もっと特別な時間を味あわせてくれよ。
・・・!
透真は驚いて陽翔を見上げるが、陽翔の真剣な眼差しにドキンと胸が高鳴る。
月明かりに照らされた二人の影が、静かな夜道に寄り添うように伸びていた。