境内のざわめきの中、和臣の声がやけに大きく響いた。

……うわっ、マジかよ! 凶!? なんでよりによって凶なんだよ! 今年の運勢、もう終わりってこと!? こんなの、あんまりだろ!
手の中の小さな紙切れを握りしめ、肩をガクンと落とす。

和臣、そんなに落ち込まないで
俺は横に立って、そっと肩をポンポンと叩いた。

だって凶だぜ? 人生詰んだみたいなもんじゃん? 何やってもうまくいかないとか、嫌なことばっか起こるとか……俺、そういうの本当に苦手なんだよ

……大げさだな

でもさ……もし俺のせいで悠真にまで悪いことが起こったらどうしようって……
和臣は眉を寄せ、視線を落とす。

俺の悪い運勢のせいで、お前にまで不幸が降りかかるなんて……そんなの、絶対に耐えられない
俺は思わず息をのんだ。

……お前、自分のことより、俺のこと心配して……
目 次
おみくじで『凶』を引いても大丈夫!本当の意味とは
皆さんこんにちは、悠真です。
今日は、皆さんがおみくじで「凶」を引いてしまった時に、決して落胆することなく、むしろポジティブに受け止めていただけるように、その本当の意味についてお話したいと思います。
新年の初詣などでおみくじを引く機会って多いですよね。
その中で「凶」という結果を目にすると、どうしても不安な気持ちになったり、これから悪いことが起こるのではないかと心配になったりする方もいらっしゃるでしょう。
でも結論からお伝えすると、「凶」は決して恐れるべきものではありません。

……え? “凶”って別に恐れるものじゃないって……なんで? 普通に考えたら悪いことの前触れみたいなもんじゃん

和臣のその気持ち、わかるよ。でもね、ちゃんと意味を知れば安心できるから。このあと順番に説明していくね
おみくじは神さまからの「手紙」
まず、おみくじを単なる「占い」と捉えないでください。
僕が皆さんにお伝えしたいのは、おみくじは今の皆さんの状態を神さまが教えてくださる「手紙」のようなものだということです。
その手紙には、皆さんの現状、そしてこれからどう行動すべきかという、神さまからの大切なアドバイスが記されています。
神さまは、僕たち一人ひとりのことを常に見守り、最善の道へと導こうとしてくださっている存在ですからね。
その「今」を教えてくださるのが、おみくじなんですよ。

……えっ、おみくじって神さまからの手紙だったの? ただの運試しだと思ってた……そう考えると、急に尊いものに思えてきた

でしょ? だから……ほら、あったかい手紙だと思ってゆっくり読もう?
「凶」は最高の「スタートライン」

……とはいえ、凶は凶なんだよなぁ
おみくじで「凶」が出たからといって、決して終わりを意味するわけではありません。
むしろ、それはこれ以上悪くなることはない「最高のスタートライン」だと、僕は皆さんに考えてほしいのです。
ほら、現状が最も悪い状態であるのですから、あとは良くなる一方だという非常にポジティブな捉え方だってできますよね。
世の中には「凶」を引いたことをきっかけに現状を見つめ直し、かえって大きな幸運を掴んだという話も少なくありません。
この「凶」というのは、皆さんに伸びしろがあることを示す、ある意味ではめでたい兆しなんですよ。

今が底ってことは…あとは登るだけか。すげぇ…その考え方、ちょっと感動するんだけど。そっか…これって、逆にチャンスなんだな
ちなみに、「凶」という漢字をよく見てみてください。
箱のフタが開いていて、そこから今にも「メ」が出てきそうに見えませんか?
つまり「メが箱から出たがっている」、それは「メが出たい」、そして「めでたい」に通じるんです。
まさに、今から先の未来が良い方向へ伸びるという予兆を示しているんですよ。

……ちょ、なにそれ! 『凶』ってそんな秘密仕込んでたの!? めでたいって…もうこれ、マジで当たりじゃん!発想が天才すぎる!

な? こうしてみると、凶もまんざらでもないだろ
おみくじの「引き直し」は絶対にNG

……じゃあさ、もしかして、もう一回引いたら大吉とか出たりして? いや、ほら…めでたい凶をつかんだ今、上を狙えるかもっていうか…
皆さんも経験があるかもしれませんが、「凶」が出たからといって、もう一度おみくじを引き直そうと考えるのは、絶対にやめてください。
なぜならこれは、神さまに対して大変失礼な行為にあたるからです。
おみくじは、神さまからの一度きりの大切なメッセージ
現状を教えてくれて、これからの行動についてアドバイスをしてくださっているのに、それを自分の都合の良い結果が出るまで何度も引き直すというのは、そのメッセージを真摯に受け止めないことになってしまいます。
一度受け取った手紙はどんな内容であれ、真摯に受け止めるべきだということを心に留めておいてほしいですね。
もし神さまからの言葉を受け止められないのであれば、それはまだおみくじを引くレベルには達していない、ということかもしれませんよ。

…だから、そんなこと考えちゃダメなんだって。せっかく神さまがくれた手紙なんだから、ちゃんと受け取らないと。な

……うん、ごめん。ちょっと欲張っちゃった
統計的に見て「凶」は心配なし

…でもさ、本当に『凶』を引いても不幸になったりしないのかなぁ?
「凶」を引くと、どうしても悪いことが起きるのではないかと不安になりますよね。
しかし統計的に見ても、その心配は杞憂に過ぎません。
一般的に、おみくじで『凶』を引く確率は、約3割弱と言われています。
つまり、おみくじを引く人の約3人に1人は『凶』を経験するということで、決して珍しいことではないんですよ。
さらに興味深いデータとして、実際に『凶』を引いた人の中で、そのおみくじが原因で本当に悪いことが起きたと感じている人は、そのうちの1割にも満たないという現状があります。
つまり、『凶』を引いたからといって、必ずしも悪いことが起こるわけではないということ。
むしろ「凶」きっかけで気を引き締め、慎重に行動することでかえってトラブルを避け、良い方向へ向かうことが多いのです。

じゃあさ、悪いことが起きるかどうかって…結局、気づけるかどうか次第ってこと?
たとえば、『穴に注意』という看板があったとして、穴を避ければ事なきを得るものを…穴を避けることをしなければ落ちて大怪我をしてしまうでしょう?
そういう、当たり前の努力をすることで、未来は変えられるんです。
皆さんの人生において、『凶』が大きく影響することは決してありません。
何事もプラス思考で考えることが大切なんですよ。

不運って、降ってくるもんじゃないんだ。それに気づけた時点でもう半分は回避できてる。あとはちゃんと行動するだけだよ。
神さまからの「手紙」は、結ばずに持ち帰るのが正解

よし、じゃあこの凶、しっかり結んで帰るか…っと。

待って和臣。今のその気持ち、ちゃんと持ち帰って時々読み返して思い出せるようにしようよ。
おみくじを引いた後、その紙を境内の木の枝などに結んで帰る方が多いですよね。
しかし、実はおみくじは持ち帰り、定期的に読み返して生活の指針にすべきものだと、おみくじを発行している女子道社さんも回答しているんですよ。
神さまからいただいた大切な「メッセージ」だからこそ、持ち帰って何度も読み返し、その時の気づきを忘れないようにするという意味合いがあるんです。
繰り返しになりますが「凶」を引いても「大凶」を引いても、それは現状を表しているにすぎません。
おみくじの内容をよく読んで慎重に行動すれば、吉にも大吉にも転じることができるんです。
備えあれば憂いなし
逆にね、皆さん。
大吉を引いたからといって気を緩め、何の努力もせずボーッと過ごしてチャンスを掴まなければ、小吉にも凶にもなってしまうものなんです。
おみくじの結果に一喜一憂して落ち込む必要は全くありません。
神さまは常に僕たちの行動を見守ってくださっています。
大吉だろうと、大凶だろうと…何の努力もせず堕落していれば、救いの手など差し伸べてはくださらないということを、心に留めておきましょうね。
まとめ:大切なのは、結果をどう受け止め行動するか

おみくじの「凶」は、決して不幸の始まりではありません

むしろ、現状を見つめ直し、より良い未来を築くための神さまからのメッセージなのです
たとえば、信号が赤になったら一度立ち止まるように「凶」もまた、あなたの足を止めてくれる合図。
焦って進めば危ないときに、「今はゆっくりでいいよ」と教えてくれているのです。
だからこそ「凶」を引いたときこそ、自分の足元や周りを見渡してみましょう。
小さな変化に気づき、危険を避け、チャンスを逃さない――そういう心持ちでいれば、凶はあなたを守る強力なお守りに変わります。
僕は、こんな風に思っているといいと思います。
「これは不幸の宣告じゃなくて、神さまが僕にだけくれた特別なアドバイスなんだ」
そう考えると不安は静まり、むしろ背中を押されるような感覚になります。
僕と和臣も、この「凶」のおかげで、お互いの絆をより強く感じることができました。
どんな運勢でも、大切な人と手を取り合っていれば、きっと最強の運勢に変えられるはずです。
運勢は紙切れ一枚が決めるものじゃありません。
それをどう受け取り、どう活かすか――そこにこそ、本当の運命が宿るのです。
それでは、今回はこのへんで。
おまけ:凶がくれた、俺たちの未来
神社をあとにした俺たちは、冬の澄んだ空気の中を並んで歩いていた。手袋越しでも、隣を歩く和臣の体温がしっかりと伝わってくる。
ふと、ポケットからおみくじを取り出した和臣が指先で「恋愛」の欄をなぞりながら、ぽつりとつぶやいた。

……現状維持が吉、か
その声は少し沈んでいて、俺はちらりと横目で和臣の横顔を見る。

悠真との関係、進展なしか……
肩をすくめるその姿に何か言ってやりたいと思った、そのとき――和臣が突然、電球が灯ったような顔で俺を振り返る。

あっ!でもさ!ってことは、今の俺と悠真の関係は、最高の状態ってことだよな!? これ以上良くならないくらい、もう満点ってことだろ? なあ、悠真!
その真っすぐな笑顔に、俺は思わず吹き出してしまった。

ふふ……そうかもしれないね
こんなふうに、落ち込んだかと思えば一瞬で凶をポジティブにひっくり返してしまう――その切り替えの早さも含めて、本当に和臣らしい。
突然、和臣が俺の肩を引き寄せた。冬の空気が少し冷たいはずなのに、距離が縮まると急に息苦しいほどあたたかくなる。
そして、俺の耳元に唇を寄せて――

……このままが一番いい。だって、ずっと……夜まであったかいままでいられるだろ?

……え? どういう意味?
首をかしげる俺に、和臣がにやりと笑って言った。

帰ったらさ……続き、しよ?
心臓が一瞬、強く跳ねる。
その言葉の意味も、和臣の吐息が運ぶ熱も、どこにも逃げ場がないまま、俺はただ黙ってうなずくことしかできなかった。
今年も、和臣との一年が始まった。
またこうして、笑って、じゃれて、時々ドキッとして――そんな時間を、たくさん積み重ねていきたい。
和臣との楽しい日々が、この先もずっと続きますように。
……神さま、よろしくお願いしますね。